ブルックナーの交響曲


アントン・ブルックナーについて

アントン・ブルックナーは偉大ではあるが風変わりな作曲家であった。
彼の経歴について語ることはあまり面白くない(と思う)。ここは第三帝国時代にもてはやされ、今でもその偉大さのゆえに一部の愛好家から圧倒的な人気を得ている彼の交響曲について語るコーナーです。

管理人の独断的スタンスと分析/考察

1.ブルックナーは00番、0番、1〜9番の交響曲を書いたが現在管理人が関心を持っているのは7,8,9番及び5,4,3、1番の一部と6番、2番のアダージョに限定されている。更に全曲を聴いてコメントできるのは「第8番」のみである。
2.いわゆる「版(Version)」について。原典版として「ハース版」「ノーヴァク版」そして改訂版がいくつかあるが、個人的見解としてはノーヴァク版のほうが素直な編集かなと考える。ハースはブルックナー自身の最初のスケッチにこだわり過ぎており、8番や2番の一部で自分が作曲してしまった部分がある。しかし、彼の交響曲は決定的に煮詰められているわけではないので、版にとらわれずにいろいろ指揮者の好みでオーケストレーションを変更しても構わないのではないか?(あのジョージ・セルですら8番の録音では2,3楽章で改訂版を一部つかっているのだ!)
3.最近の日本の研究動向について。朝比奈隆はハース版にこだわって日本の聴衆にブルックナーをアピールした。そして一定の成果をおさめた。しかし、その後に続く新たな成果を決して見逃してはならない。金子健志や野口剛夫による新発見の版によるトライアル、民間研究者の川崎高伸の発見による第8番第3楽章中間稿の初演等、世界に誇る成果が日本人によって達成されているのだ。これは、ある意味で現代の奇跡である。大戦後のヨーロッパの硬直した文化状況に喝をいれたこれらの業績に注目し続けよう。

「第8番」について語る

1.なぜ「第8番」か?
第8番については特別な思い入れがあり、ここではいくつかの側面から自分の思いを語ってみたい。最初にこの曲を聴いたのは中学3年のとき、フルトヴェングラーファンの同級生が貸してくれたフルヴェン・ヴィーンフィル(1944年録音)のLPであった。幸か不幸か現在に至るまでこの演奏が「刷り込み」になっている。日本のクラシック界ではブルックナーファンはあまり歓迎されていないし、ブルックナーファンからは「ブル8だけ大好き人間」はやはりあまり歓迎されていないので非常に居心地が悪い。しかし他の交響曲に比べて全ての楽章が平均して魅力的なのは確かだ。
2.作品の概要(本に出ていることは最小限にとどめたい)
  1887年:第1稿完成(不評により改訂を決意)
  1888年:第1.5稿完成(第3楽章のみ)
  1890年:第2稿完成
  1892年:弟子の改訂により初演、同年改訂版出版
  1939年:ハースによる第2稿原典版出版
  1955年:ノーヴァクによる第2稿原典版出版
  1977年:ノーヴァクによる第1稿原典版出版
  2004年:川崎高伸氏発見第1.5項の第3楽章がオーケストラで世界初演
3.第8番の稿と版についての個人的見解
8番では第1稿は完成度の点で見劣りがする(特に1楽章)ので、弟子の横槍に感謝するべきかもしれない。変わりに第9番が未完成になってしまったが。さて、第2稿が完成してから初演までの間に弟子達がいじくり回したスコアをどう解釈するかであるが、ハースのようにむきになってオリジナルを求めるのはどうだろう。ブルックナーの曲は他の作曲家のように確固とした構成ではなくオルガン演奏のように即興的な部分があり、弟子による味付けが妙にマッチすることもあるのではなかろうか?例えばハース版で復活した3楽章の10小節はやはり無いほうが自然に聞こえるし、オーケストレーションにしても改訂版に近いノーヴァク版のほうが美しいこともある。(例:3楽章169小節からのクラリネットの溜め息)更に改訂版からの着想を大胆に取り入れたジョージ・セルや野口剛夫氏の解釈も説得力がある。逆に4楽章はハースが第1稿を復活させた部分に捨てがたい味がある。要は全体のバランスを考えながらも細かいニュアンスについて色々手を加えれば、より魅力的な演奏が実現できると言いたいのだ。(自分で振ってみたい!)
4.CDで聴く名演、快演
・なんといっても原典版を使用した演奏で最高のCDはG・ヴァント指揮ベルリンフィルのライブであろう。録音良し、解釈良し、演奏良し!
・意外な(失礼)名演がセル指揮クリーブランドオケである。2・3楽章に改訂版を大胆に取り入れ成功している。(2楽章69小節からのチェロのピチカート、第3楽章178小節からのチェロをソロに変更等)
・色々な版をごちゃ混ぜにした怪演がロペス・コボス指揮シンシナティオケである。まあこれは話の種に聴いてみるという感じか。
・クナの演奏はどのオケのものも改訂版一筋!、しかし個人的にはイマイチ好きになれない。
・大好きな1楽章をもっともドラマティックに演奏しているのが前述のフルヴェン指揮ヴィーンフィル・1944年録音。チェリやジュリーニを聴くと単に長くてうるさいイメージになるこの楽章は、コーダのカタストローフェがドレスデン大空襲を想起させるこの演奏にとどめをさす。強烈なテンポの動きがこの楽章のドラマを完璧に引き出しているのだ。(他の楽章はイマイチ、逆に言うとこの楽章だけがフルヴェン向き?)

ブルヲタクと「男の趣味」(おまけ)

ブルックナーの交響曲は女性にはあまり人気が無い。ところで、上記で述べた「版」や「稿」の細かい変遷についての考証は妙に「男の趣味」の匂いがしないだろうか。例えば鉄道マニアである。SLのC62が好きなマニアがいるとする。1号機から49号機までの製造年月、製造会社、主な走行履歴、オプション機器の取付履歴等々を全て暗記している。兵器マニアがいるとする。例えば1300輌あまりのタイガー戦車の製造時期別の特徴やタイプや配属部隊の履歴、戦闘記録やと戦果について事細かに調べつくしている。興味の無い人にとっては殆ど意味の無いデータを嬉々としてほじくり返す。・・・何か共通項があるような気がするのだが・・・。


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